2010年11月10日水曜日

豊里友行の「沖縄便り」(4) 「ニライカナイの地図」 ・・・豊里友行

豊里友行の「沖縄便り」(4)
「ニライカナイの地図」
・・・豊里友行

先月名古屋で開催されたCBD・COP10(第10回生物多様性条約締約国会議)。
「HAIKUで伝える生物多様性」(「HAIKUで伝える生物多様性」実行委員会)では、
天体の渦のごとくに蝌蚪の紐  湯浅康右」
里山に入り囀りのシャワー浴ぶ  井村晏通」
月光を浴びつやつやと蟬の羽化  西野桂子」など秀句も発掘された。
沖縄の環境破壊の現状も世界の人々の目にとまることになったようだ。
実を言うと私の生まれ育った泡瀬でも沖縄市泡瀬干潟の埋立工事が推し進められている。
今回は私の原点となる泡瀬からお話をします。

二〇〇五年から、これまでの働き過ぎの過労のため療養も兼ねて沖縄市泡瀬の海へ毎日通う。
私は海がはぐくむ生物に、これからの自分の生き方を見いだせないか試みた。
だが、そこでは水平線を食いつぶすように消費社会の泡瀬の埋立工事がじわじわと押し寄せて来た。
自民党や民主党にしても革新政党にしても開発という環境破壊は止まらない。
屋良朝苗琉球政府の行政主席は金武湾(CTS闘争)、大田昌秀前沖縄県知事は大国林道、そして東門美津子沖縄市長は泡瀬の埋め立て工事など革新政権においても、環境問題は軽視されて来た。
そんな心の焦燥感を打ち消すように私は、海の生命体に魅せられていく心地よさに満たされていった。

今、泡瀬の埋立工事によって百年かかって育った珊瑚礁の森がつぶされている。
多くの生物のすむ泡瀬の海を埋めるのはあまりにも横暴な行為といえる。
貝だけで三百八種類、野鳥も百五十種類以上、海草も十一種類も見られる。
貴重な種類、新種も次々と発見されている。
県内最大の渡り鳥の飛来地でもあり、県の作成する「レッドデータおきなわ」に、泡瀬では絶滅の恐れのある海洋生物(貝類、甲殻類、魚類)が百二十一種も記載されている。
この埋立工事は、この豊な沖縄の「自然の美術館」を無残にも壊してしまうことになる。
ラムサール条約に認定された「泡瀬干潟」は、琉球諸島の世界自然遺産候補地の一つでもある。
ラムサール条約認定の泡瀬干潟は、泡瀬の埋立工事により琉球諸島の世界自然遺産への道も遠のく。

私は仕事で泡瀬干潟のカニの撮影をしながら泡瀬の海に分布するカニが八重山諸島、琉球諸島近辺のアジアに生息するものであることを『沖縄海中生物図鑑』で知る。
琉球諸島の多様な生き物たちは、海流また台風などの自然現象によりはるか遠く水平線の向こうにあるとういう理想郷・ニライカナイからこの泡瀬の海にも漂流し、この自然環境になじんできたのではないかと想いを巡らせる(注1)。
これらはもちろん沖縄の島々にも言えることで多様な生物や文化の根源は、ニライカナイの贈り物からの影響もあったのだと考えられる。
私はそれらのニライカナイの贈り物を写真に記録し、写真の分布から「ニライカナイの地図」が見えてこないかと期待しているのだ。
つまり海に囲まれた島ならではの人間の生活や自然は、豊かな精神世界を構築してきたし、二ライカナイの宝物を享受することにより、より身近な世界としてニライカナイを感じてきたのだろう。
自然を取り巻く人々の育んで来た「ニライカナイの地図」を写真映像化してみようと試みる。
そのニライカナイの豊かな精神世界は今、泡瀬の埋立工事によって根源的な理想郷・ニライカナイの存在を失くしてしまわないだろうか。
海を売り山を売り沖縄はどこへ向かおうとしているのだろうか。
地球温暖化などのエコ推進の潮流の中で私たちウチナーンチュ(沖縄の人)は、沖縄の本来持っている豊かな自然や精神世界さえも売り渡してしまっているのではないだろうか。


青蛙ニライカナイの地図をとぶ  友行


(注1=沖縄市泡瀬干潟近くの比屋根湿地などは八重山諸島からの湿地の移植がなされているが、この論に問題はなく、むしろ人の手を借りた自然環境も含めて「ニライカナイの地図」という構想へ想いを馳せる。)


渡り鳥のムナグロが羽を休める(後方は泡瀬干潟沖の埋め立て工事)=2008年2月ごろ、沖縄市泡瀬干潟

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■関連記事

豊里友行の「沖縄便り」(1)・・・豊里友行   →読む

豊里友行の「沖縄便り」(2)「甲子園俳句」・・・豊里友行   →読む

豊里友行の「沖縄便り」(3)「星のさざなみ」・・・豊里友行   →読む

10 件のコメント:

  1. 沖縄戦と基地問題の2部章立ての『沖縄1999-2010 戦世・普天間・辺野古』豊里友行写真集(840円)を購入しました。
    これまでの豊里友行さんの俳句や写真では、沖縄戦や基地問題がクローズされがちなのですね。
    『バーコードの森』も購入したのですが、意外と感性の豊かな俳句が多いと感じました。
    もちろん豊里友行さんの戦争や基地問題にも感性があると思います。
    ですが今回の「ニライカナイの地図」には、俳句においても写真においても新しい水平線の開拓とでもいいましょうか、新しい視点があります。
    読者の視野を広げてくれるモノがあります。
    それはもちろん豊里友行さんの感性の俳句にも言えると思います。
    自分の足元〈沖縄〉をテーマに掘り起こしていく内に凄い写真テーマを開眼されている!
    俳句は五七五という短い詩なので見落とされがちですが、新しい視点を与えてくれる豊里友行俳句に今後も注目して行きたいと思いました。
    さらなる飛躍をお祈り致します。

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  2.  先月名古屋で開催されたCBD・COP10(第10回生物多様性条約締約国会議)では、沖縄市泡瀬干潟の現状を小橋川共男さんという方がお話されたようです。
    沖縄の足元には、豊里さんの言う「ニライカナイの地図」がしっかりと息づいていると思いました。
     ぜひとも「ニライカナイの地図」の写真シリーズも見てみたいです。
     俳人も写真家も読者の世界を広げてくださるクリエイターですね。
     さらなるご活躍を祈願致します。

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  3. 地球号さんへ

    ブログ・とよチャンネルによると2005年に「日本自然保護協会」の依頼で会報『自然保護』2005年7/8月号(No.486)の表紙として沖縄市泡瀬干潟のミナミコメツキガニを撮影したそうです。
    今回の記事も沖縄の新聞で「まなざしの行方」(沖縄タイムス)初出の推敲版ですね(笑)
    下記に「ニライカナイの地図」の写真シリーズがありますのでどうかご観覧ください。



    ニライカナイの地図(初期)= http://toyoanneru123.ti-da.net/e1882666.html
                 = http://toyoanneru123.ti-da.net/e1882654.html

    ミナミコメツキガニ撮影日記= http://toyoanneru123.ti-da.net/e1882592.html
    (会報『自然保護』に載る)= http://toyoanneru123.ti-da.net/e719600.html

    塩漬けの街= http://toyoanneru123.ti-da.net/e2066957.html


    ニライカナイの地図 ~ 泡 瀬 ~ 
                 = http://toyoanneru123.ti-da.net/e1628058.html

    ニライカナイの地図-泡瀬干潟ー パート2
                 = http://toyoanneru123.ti-da.net/e1655476.html 

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  4. なお 様のリンク先を見ると、理想郷・ニライカナイを自分の足元である沖縄の地を掘り起こすように撮影されているようですね。
    沖縄ブームが続く中でニライカナイの言葉もよく聞くようになる。
    ですが沖縄の人にとっての精神世界をどう表現するかというところまで追及している人は少ない。
    というか豊里友行さんしか知らない。
    本土から移住して来た写真家の小橋川共男氏が「ニライカナイの海」という海にまつわる人々を撮っている。
    豊里さんの「二ライカナイの地図」の方が深化されているようだが、写真シリーズの数がまだまだ少ない。
    俳句もいいですが写真の方も精進して「ニライカナイの地図」の写真集も出せるといいですね。

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  5. ニライカナイを昇華させた面白い企画ですね。
    どうせなら沖縄全土の生活まで踏み込んだストーリーになることを期待してます。

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  6. 俳句の未来さま

    『沖縄1999-2010 戦世・普天間・辺野古』豊里友行写真集(840円)や『バーコードの森』をお買い上げいただき感謝です。
    私の俳句は沖縄戦や基地問題がクローズ・アップされがちでしょうか。
    『バーコードの森』豊里友行俳句集にはいろいろな思いをいっぱい詰め込んでいます。もちろん一句で成り立つように意識して一句の質を深めるように心がけて来ました。
    ですからやっつけ仕事で詠まれては困ります。
    というのが私の俳句鑑賞の本音です。
    消費される俳句ではなく噛めば噛むほど味のある俳句を目指してます(笑)
    そのためにも内容が良くなくてはいけません。
    私は俳句を言葉遊びではないように心がけています。
    「視野を広げてくれる」や「感性の俳句」だとお褒めの言葉いただき大変恐縮しています。
    一句一句大切に咀嚼するように豊里友行俳句を詠んでいただけると幸いです。

    『東京ベクトル』豊里友行写真集も大部分を公開しています。
    ご観覧ください。
    http://toyozato1234.ti-da.net/

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  7. 地球号さんへ

    写真家小橋川共男さんは行動する写真家で尊敬できる沖縄の大先輩です。
    CBD・COP10でも奥間川流域保護基金の伊波義安先生、泡瀬干潟を守る連絡会の小橋川共男さん、基地問題に関しては真喜志好一さんが講演したらしいです。

    なおさんがコメントしてくださったモノはまだまだ「ニライカナイの地図」の企画の模索段階です。

    CBD・COP10に限らず俳人で写真家として私豊里友行も地球環境を守り育てるように行動していきたいです。
    よろしくお願い致します。

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  8. なおさん 

    いつも応援ありがとうございます。

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  9. 喜屋武さん、石川さま へ

    私事ですが・・・、豊里君は自宅にインターネットの出来る環境がなく沖縄市の公共施設で2時間100円でウルトラマンのようにブログやこの沖縄便りを連載しています。
    まとめてコメントして失礼します。
    これからも精進するので応援よ・ろ・し・く・ね(笑)
    では時間なので宇宙へ帰ります!

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  10. 記事に私の勘違いがありましたので訂正致します。
    「ラムサール条約に認定された」「ラムサール条約認定」とありますが、琉球新報によると「環境省が9月30日に発表したラムサール条約の基準を満たした国内の湿地172カ所のうち、県内からは名護市東海岸の大浦川や泡瀬干潟を含む中城湾北部などの湿地24カ所が選定された。」とあります。
    慎んで誤りを訂正致します。

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